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【少年よ、<狂気>を抱け】見沢文学との出会いについて・・・・・朱斑羽

※メールマガジン「殺気ある文学」に掲載した文章です※

 私が初めて見沢知廉の文章に触れたのは、週刊プレイボーイの誌面 の隅の小さなコラムだ。当時はまだ高校生で、夜中のコンビ二で大人 の雑誌を買うのにもひどく勇気が要って、やっとの思いで買ったそれ を隅々まで読んでいた。初めて女性のヌードを見たのもこの雑誌で、 そのときの鮮烈な感動をはっきりと憶えている。なぜか90式戦車の グラビアも載っていたりして、見沢知廉の小さなコラムは松山千春の 人生相談と並んで毎週毒を放っていた。最初に読んだのは、ある若き 政治活動家を描写する記事で、そのフレーズは独特のリズムを持って いた。お前ら、どこどこの駅前に行ってみろ、リーゼントの若者が激 しく天才的なアジを飛ばしているぜ!もうすぐ、動乱の時代がやって くるぞ!覚悟しろ!…みたいな感じで、暗い学校生活に絶望していた 私は一発で痺れた。2001年の米国同時多発テロのときはまた凄か った。おっと!とんでもないニュースが飛び込んできた!やっぱりテ ロは面白いぜ!という調子。近代史に関する本を読み漁ってすっかり 反米右翼少年になっていた私は、瓦解するワールド・トレード・セン ターのテレビ画像をみて歓喜に打ち震えたバカだったわけだが、見沢 知廉のように率直な反応をメディアで表明してしまう人間も稀有であ ったから、完全にその名は私の内部に刻まれた。

 そして新潮文庫の『天皇ごっこ』を手にとることになった。その物 語は監獄から始まる。昭和天皇の崩御に恩赦を渇望する囚人達のドタ バタ劇である。作家じしんをモデルにした主人公は、右翼でありなが らそれを待ち望む。そして、崩御―――。

田村は、いよいよ選ばれたる者への天寵だと全身に鳥肌 を立てて感動し、頭の中をジークフリートのモチーフが 駆けめぐり、地球はやっぱり自分を中心に回っていると 感じて、すくっと立って天を仰いだ
(『天皇ごっこ』第一章)

 どうです、カッコイイでしょう。しかし恩赦(減刑)は出ない。つ いに田村は殉死を図るが、それも失敗。監獄は、見沢文学の重要な柱 だ。ベストセラー『囚人狂時代』も『天皇ごっこ』に負けないほど情 報量の多い作品だった。ちなみに文庫版『天皇ごっこ』はページの下 に脚注がついていて、一冊読めばかなり勉強になる「お得」な本。先 日ホリエモンが東京拘置所に収監されたが、堀の向こう側というのは 凄まじい世界であることが、見沢文学でいやというほどわかる。私は 見沢作品に触れることで、絶対に刑務所にだけは入りたくないと思っ たものだ。

 とにかく私は初めて読んだ見沢文学『天皇ごっこ』の随所に戦慄し 、仰天し、酩酊した。いま読み返しても、その輝き、その新しさに変 わりはない。最高傑作と呼ばれる所以であろう。  さて、本稿の目的は作品評ではなく、私は私にとっての見沢知廉を 書きたいのだった。私にとって、文学と現実の境界線はあいまいだっ た。私は中学生の頃に三島由紀夫の小説を読み漁り、自分も小説の主 人公のようになりたいと妄想する少年で、勉強が嫌いなのにエリート 校に進学したいと思ったり、小説を書いたこともないのに作家になり たいと思ったり、勇気がないのに英雄になりたいと願っていた。そん な私にとって、自分じしんを物語のモデルにできてしまう見沢知廉は、 まさしく自己を同一化させたくなるような人だった。私が14歳のと きのことだ。同じ中学三年生の少年が社会を震撼とさせた。彼は酒鬼 薔薇聖斗と名乗って大人達に宣戦し、捕らえられ、彼を解剖した大人たち はさらに震え上がった。そして同世代による猟奇殺人は続発し、自殺 者も連日報じられる。私には人を殺す度胸も、自殺する蛮勇もなかっ たが、心の奥底で世界の滅亡を望むていどの思春期ではあった。高校 進学に失敗し、郊外の私立校にかろうじて拾われたが、高校生活の前 半は暗澹たる日々で、それを救ってくれたのが見沢文学だった。本屋 でみつけた『日本を撃て』にある、<私の深い絶望は、白い紙に赤い 血が染みて行くように容赦なく、全能の神としての自己を否定し、自 己を人類の白血球、と規定した>という一行は、社会不適応者と思い 悩んでいた自分の迷いを吹き飛ばすのに充分すぎるほどの「一撃」だ ったのだから。それからの私は、周囲の友人達が見違えるほどに豹変 し、赤面症まで癒えた。そしていつの日か世界を救い覚醒させる「人 類の白血球になるのだ」という指標が、私の核となった。

 ああ、見沢知廉よ。あなたはなんと罪深い人だ。あなたは少年に危 険な夢を見させ、そうして自分だけが忽然とかき消えた。私はあなた の見果てぬ夢に背を押されて、幻の動乱に身を投じようとし続けるこ とでしょう。 (朱斑羽)

しゅ・はんう 見沢知廉ファンクラブ白血球團 運営委員


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